ビハーラ活動10カ年の総括を終えて
-第11期生養成研修の再開にあたって-

ビハーラ実践活動研究会専門委員 大橋 紀恵

  宗門が、ビハーラ活動のための人材育成を始めて第10期の研修を終了した時点[1997(平成9)年度、1998(平成10)年度]で、本山での養成研修を休止していました。

  これは、「蓮如上人五百回遠忌法要」を機会に、過去10カ年の歩みを振り返り点検し、今後に向けて、より建設的な推進をして行くためでもありました。10期100日間という長期にわたる法要でしたが、私は9月26・27日の「ビハーラ・社会福祉の日」のことは忘れることのできない、心に残る日であったと思っています。

  その日は、北海道から鹿児島に至る、全国31すべての教区に広がった教区ビハーラ会員の方々が活動されいる施設や病院から、大勢の方々が参詣されました。施設職員やビハーラ会員の方々に手をとられ、また車椅子に乗ったまま誘導された方、あるいは盲導犬と共に椅子席の特設会場に喜びに満ちた表情で入ってこられる方々に出会えました。10年前にビハーラ活動に取り組み、様々な不安と批判が交錯する中、地味ではありましたが継続したればこその成果であったと感無量でした。

  養成研修は中断していましたが、1998(平成10)年の『宗報』に“焦点ビハーラ活動”が特集として掲載され、各教区から率直な意見が届けられています。

  9月号で、ビハーラ佐賀代表の日渓哲章さんは『患者さんや家族の方、また施設の方々との出会いは自分の中に本来なかったあったかいものをいただいた思いです。自分が歩ませて頂いた後ろから聖人や蓮師が後押しして下さる思いがします』と。

  11・12月号では、熊本教区ビハーラコーディネーターの池尻真弓さんが『この特集記事を切り取って1冊の本にしている。「ビハーラのお寺」と登録してどんな悩みも聴いてもらえるお寺としての活動が出来たら』と。

  震災後、神戸の仮設住宅へ継続して支援をされている長野教区ビハーラコーディネーターの柳川真澄さんは『それぞれの会員がそれぞれの地域で、それぞれの思いで主体的に活動する、お互いを認める横のつながりのチームワークが機能したからこそ実現できた』と。

このように一時も休まずビハーラ活動は各地で根をおろし着実に歩み続けています。

  また一方、ビハーラ実践活動研究会専門委員会においては、10カ年の総合点検と総括の話し合いを重ねてようやく「ビハーラ活動10カ年の総括書」を作成し、ビハーラ実践活動研究会の会長より、総局宛に提出されました。

  先の第254回定期宗会における豊原総長執務方針演説の要旨を『本願寺新報』(3月10日付)から抜粋しますと「平成11年度は法要の総括、点検を通して来世紀に引き継ぐべき課題を見出しつつ宗門の将来展望を構想すべく、更には宗門内外のご意見を吸収して少なくとも宗祖の大遠忌をお迎えするまでの中、長期に亘る計画を如何に策定するかの協議検討を重ねていきたい」と述べられ、「社会部関係では『ビハーラ活動10カ年 総括書』に基づき、今後の課題と展望を尊重しつつ第11期生の養成研修を再開、教区のビハーラ活動の活性化を図りたい」と明確に、その方向性をお示しいただきました。

  『総括書』にまとめられたビハーラ活動の課題と展望の内容概略は、次の通りです。

(1)ビハーラ研究機関の設置

ビハーラ理念の構築、ビハーラ活動の臨床研究の機関を設置する必要がある。また、研究発表のセミナーなどの機会を設け研究誌に発表し、内外の関心ある人に届ける。

(2)ビハーラ組織の改革

教区ビハーラが全国の組織された現在実践者組織を本位とした方向にすすむべき。現場をサポートし、バックアップし、スタッフをもったライン組織が望ましい。中央にはビハーラを推進する統一機能をもった組織と、ビハーラにかかわる諸団体などの調整連絡の協議組織が必要。

(3)ビハーラ活動者養成の新カリキュラム採用

実践現場に摘要できる有効な人材を養成するための新カリキュラムに改める。

(4)ビハーラコーディネーターの養成と情報蒐集

情報蒐集はビハーラコーディネーターの重要な役割。教区毎の年度報告や活動報告、ビハーラビデオ、冊子、事例集の発刊などをして関心ある人にゆきわたるように。

(5)ビハーラ活動の啓発と人材の発掘

寺院関係者へ更なる協力・研修修了者の啓発、ビハーラコーディネーターの養成。


(6)ビハーラ専門僧侶の認定・任命制度

関係教育機関に養成を促し医療福祉専門僧侶(チャプレン)の認定。


以上の課題の中で、(3)ビハーラ活動者養成にあたっての新カリキュラムは検討を重ねた結果、第11期からは次のような特色をもり込んだ内容に改めました。

①ビハーラ活動の基本視点として真宗教義、基幹運動の理解、仏教ケアについてより深く学べる ように。
②ビハーラ対象者への理解を深め全人的なケアができるように。家事援助や支援方法などに2級ホームヘルパー程度のケアが学べるように。
③基本介護技術やカウンセリング実習の時間を多くとり現場に対応できるように。
④事例検討や演習の時間を設け、また段階別実習をとり入れ、一人ひとりが主体的に実践できるように。

  第11期から、介護実習に関しては龍谷大学の施設を利用できることになり、福祉関係教員の協力も期待できることになりました。


  ご門主様は、蓮如上人五百回遠忌法要ご満座の「ご消息」の中で、「『いのち』の尊厳を傷つける問題が山積みしています。み教えを学び、お念仏を申しつつ自らの人生の課題としてこれらに取り組んでいくことが宗門のすすめている基幹運動であります」と述べられ、さらに「蓮如上人の念願には具体的な行動によってお応えしたい」と、私たちの歩むべき道を示されています。

  去る3月1日、我が国において、法制定後初の脳死臓器移植が行なわれました。テレビ、新聞などの報道は、移植医の技術水準の高さを称賛する言葉と、移植を受ける患者の喜びと、感謝の気持を伝える言葉にあふれました。このような状況の中で、臓器提供側、つまり死にゆく人と家族の死生観や意思がどのように尊重されたのか、家族に落ち着いて考える時間があったのだろうか、と考えたのは私一人ではなかったと思います。この度のことで、臓器の入ったクーラーボックスをみて、「いのち」を「モノ」として扱う現代社会のあり方や新しい「生と死」のあり方が今後ますます論議されるべきではないかと感じました。

  「念仏申す人生を歩みながら同時に全人類の課題を自らのものとして担う積極性をもち、念仏者が絶えず本来の姿に立ち返りつつ、行動を通して変革を遂げて行く、それこそがご法要のテーマをいかす道である」と、豊原総長執務方針演説をしめくくるお言葉はビハーラ活動の現場において実感でき、体験できると信じています。

  最後に、広島でのビハーラ全国集会で早川一光氏がビハーラ活動をたんぽぽの花にたとえられました。

  ちってすがれたたんぽぽの  かわらのすきに だあまって
  春のくるまでかくれてる  つよいその根はめに見えぬ。
  見えぬけれどもあるんだよ。  見えぬものでもあるんだよ。
           
                金子みすず「星とたんぽぽ」より

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