4.ビハーラ活動の課題と展望

 ビハーラ活動に取り組んだ1988(昭和63)年から「ビハーラ・現状と課題」を『宗報』に掲載し、それらをビハーラ関係者に「抜き刷り」をして配布してきた。『宗報』をとおして常に「現状と課題」を明らかにしてきたが、その後は、ビハーラの啓発と関心の集中の必要性にともない、『宗報』に「焦点・ビハーラ活動」として連載してきた。ビハーラ全体としては、ビハーラ活動者と、ビハーラ活動の現場を中心に考え、どう支援していくかという視点を最重要視していきたい。

  それでは、ビハーラの現状分析を行うと、どのような課題があるだろうか。どのようにすると展望が開かれていくだろうか。それらを領域別にみてみることにする。

①ビハーラ研究機関の設置

  ビハーラ理念の課題からみると、基本学習会で学んだビハーラ理念が、身についていないことが顕著である。ビハーラ理念は、念仏者が老・病・死の事実、苦悩する人間の現実にかかわる視点から、構築する性質のものである。

  今後は、ビハーラ理念の構築、及びビハーラ活動の臨床研究の機関を設置する必要がある。それは、第三者に委託するのではなく、ビハーラ活動実践者自身がこれに当たることである。また、それら研究発表のセミナーなどの機会を設け、研究誌に発表し内外の関心ある人に届けていくことで、大きな効果がでてくるものと考える。

②ビハーラの組織の改革

  ビハーラ組織の「ビハーラ実践活動研究会」とその会員構成という考え方ですすめてきたが、教区ビハーラが全国に組織された現在、実践者組織を本位とした方向に進むべきである。研究会という名称は、その内実を表しておらず、今後の真宗教団の組織は、真宗ネットワークをベースとする考え方の方が望ましい。そのためには、現場をサポートし、バックアップできるスタッフをもったライン組織とすべきものと思量する。また、中央には、ビハーラを推進する統一機能をもった組織とビハーラにかかわる諸団体などによる調整連絡の協議組織が必要である。

  さらに、具体的作業をしたり、教育的役割をしたり、活動者を代表したり、それぞれの役割の立場の人たちを結集した組織も必要である。それら全体の調整のためのコーディネーター、若しくは常任専門委員をかかすことはできない。

  そのため、ビハーラ専門委員会、ビハーラ問題協議会の発展的な組織改革を焦眉の急を要する課題である。それに伴う一連の法制化や財政化の方途を講ずる一方、適材適所のビハーラ推進に資する職員を確保することも必要な措置と考えられる。

③ビハーラ活動者養成の新カリキュラム採用

  過去10年間、ビハーラ実践活動者の養成を行ってきたが、必ずしもすべて有効であったとはいえない。実践現場に取得した事柄を十分発揮できるよう、旧カリキュラムを新カリキュラムに改め、有効な人材養成をする必要がある。

  養成されたビハーラ実践者の記録は最も不十分な事柄の一つである。実践者の受け入れ側の病院、施設にとってもビハーラ活動は、大変理解しがたいものになっていた。それで、この改正された新カリキュラムの内容を協力病院・施設に対し、理解を得るようにパンフレット作成も急がなければならない。

④ビハーラ・コーディネーターの養成と情報蒐集

  ビハーラ活動は、従来の教団活動に見られなかった社会現場での活動である。その活動を旧来の教団活動の中で限られた考え方や、発想に閉じ込める発言が見られる。逆に、それはビハーラ活動の現場・現実に学んだことを集約し、それらを提示しするシステムづくりがまたれているということである。

  ビハーラの情報蒐集については、コーディネーターを重要な役割と位置づけ、教区ごとの年度報告やビハーラグループごとの活動報告を求めていく。もちろん、記録や報告で必要な助言については、それを行っていく。また、中央からの講師出講による報告を基に教区内のビハーラ情報を集める。

  コーディネーターは、各教区2名養成したが不十分であり、むしろビハーラ現場ごとの拠点にコーディネーターがいることで、情報蒐集・伝達の利点が大きい。その養成は、3~5年の間隔で行うことが現実的である。

  ビハーラの情報提供は、年2回の「ビハーラ通信」だけであり、近年は必要な冊子・書籍も発行されていない。よって、ビハ-ラビデオ・各種冊子・事例集・書籍の発行を通して、全国のビハーラ会員はもちろん関心のある人にゆきわたる方策をとっていく。

⑤ビハーラ活動の啓発と人材の発掘

  教区ビハーラの課題は多くあるが、なかでもビハーラ活動を広く啓発するための有効な方策を講じてもらいたいという要望が強い。特に、「寺院関係者の無理解と非協力には驚かされた。」と言った医師があり、教区ビハーラ代表者の声がある。宗門内における自らの体質問題と、社会問題に対する関心の低さの課題は大きい。

  これらの課題に応えていくためには、あらゆる機会をとらえてビハーラに関する情報を伝達し、理解を求めていくための活動の活性化が望まれている。

 ひるがえって、ビハーラ活動者を養成する社会の期待には、老人と病人と一定の人間関係が生まれて、“心のケア”を期待する声がある。このような社会の期待に応えていくため、ビハーラ会員を増員し活動するには、次の5点が考えられる。

  • ①教区会員に登録して中央の実践者養成に応募すること。
  • ②中央における実践者養成に対し、教区の最低人数を順次上げていくこと。
  • ③啓発活動をより広く徹底して教区会員となる働きかけをすること。
  • ④実践拠点ごとに活動人員が確保できるようバックアップすること。
  • ⑤これらを遂行するため、ビハーラ・コーディネーターを養成すること。
  • ⑥ビハーラ専門僧侶の認定・任命制度

  ビハーラ活動の展開を望む社会期待の声には、医療・福祉チームの一員に加わり、専門的にケアに関わって欲しいという期待とがある。それらに応える具体的策は、手がつけられていない。現状は、全く個人の能力に頼っている状態である。既に、佐賀医大・久留米大・滋賀医大などその要請がある。

  それらについては、一定のレベルを基準として、厳格な審査制度による医療福祉専門僧侶(チャプレン)を任命する必要がある。そのため宗門関係教育機関に養成を促し、単位認定教育制度の実現に努め、医療機関や社会福祉従事者の人材の集結を促し、組織化していくことも視野に入れておきたい

 日本の超高齢化社会は、3Sといわれる世界にまれな「スピード」、大規模な「スケール」、そして後期高齢者といわれる「シニア層」増大という形で、年その姿を現出している。全人口の24%、3千万人が65歳以上という時代が到来する。

  如来の本願によって、尊い〈いのち〉をめぐまれ、どのように困難な状況にあっても一子として平等に生かされていることを知らされた者は、人びとの苦しみに共感する態度を持つことになる。「他人の問題」として困難な状況を見逃すことなく如来の願いを通してその人に結びついている「かかわり方」をし、そこに、繋がりを持ち、働きかけて行動することになる。

  私たちは、謙虚に社会にみなぎる「仏教ケア」の要請に耳を傾けてビハーラ活動していくとき、教団の存在意義は自ら明確になることである。ビハーラ活動者一人ひとりにとっても、人びとの苦悩に共感し行動するとき、念仏に値遇した喜びは深まってゆくことになろう。

  以上のごとく課題を整理し、それぞれに展望を行った。具体的方向を示して分析を行ったが、ビハーラ活動は10年の間に幅広くなり、地道な深まりもでてきている。

  ビハーラ会員は、何ら変革をしないで続けていくならば、「発展・現状維持・先細り」という、それぞれ3割内外になるのではないかと将来を予測している。できることから変革していく行動が、その将来の展望を明るくするものと考える。

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