現代ほど、社会福祉的課題が国民一人ひとりのものとして受けとめられている時代はない。いいかえれば、資本主義社会の高度な成長と発展に逆比例して、増大化する多くの社会的問題に対する関心は、他人事ではなく自分たち一人ひとりの問題として真剣に取り組まねばならない重大事であることを示すものである。それは、かつて行なわれてきたような、いわば個人的要因による困窮に苦悩する人びとに対する任意的・個人的救済や、上から下へ恵与される慈善的・憐愍的救済を否定するものである。今や我々は社会的事故に出あいやすく、何らかの社会的障害をになって生きている。このような社会に生きる国民一人ひとりの社会連帯感と相互協力による自主的・積極的な問題解決の方法を見いだそうとする考え方が、現代の開かれた地域社会に浸透し、定着しなければならない。にもかかわらず、無気力、無関心、無責任の人びとが増大化したり、いたずらに伝統に固執する人間が温存されたりしている中で、地域社会における社会教化ないし宗教教化の指導者であるべき現代僧侶さえも、その渦中にうもれがちであったりすることは、全く憂慮すべき事実である。
かつて、社会福祉事業などの社会的実践活動は、余行余善であって念仏に生きる浄土真宗の教義としては、自力作善とまぎらわしいと誤解される傾向も見受けられた。しかしながら、浄土真宗に帰依する僧侶、門信徒として、その念仏に生きる者は、おのずから他力廻向の信心に基づき、社会的実践活動に参画したり、地域福祉活動の推進に努めることは、むしろ当然である。念仏は生きてはたらく弥陀の慈悲のあらわれであり、念仏そのものの中に社会的実践活動につらなるものがある。弥陀の本願に生かされる念仏者が時代の中に生き、社会の流れに対応しながら、みずからその主体的行動を選択することは、きわめて重要なことである。念仏の一道を歩むわれわれはすべて御同朋・御同行である。ここに同朋精神でもって他人の痛みを自分の痛みとし、他人の喜びを自己の喜びとして受容していく人格は、現代社会福祉事業に従事する専門ワーカーにも期待される人間像である。それは単なる同情ではなく、あわれみの心情でもなく、人間が人間としての共感と信頼の上に成立する信念の発露である。この視点にたって、常に社会と人間を洞察し、地域社会の中に身をおいて社会福祉活動に参画することが、真宗人としての社会的使命である。
真実に生かされたみのりある社会福祉の実現は、国民相互の善意と協同共感を結集することから始められなければならない。そのことは、われわれにとって、「みんなの福祉をあつめる運動」として特色づけられるものであるが、まず、社会福祉基本目標を設定し、未来にむかって方向づけを誤らないようにしなければならない。
「みんなの福祉をあつめる運動」は、わたくしに心の灯をかかげる運動から出発して、一人ひとりのまごころをあつめる運動である。そのことは、人間的共感と充実感にあふれた実践者の和合衆を意味するものである。
イ.社会福祉に関する原理、原則を理解することを前提として、社会福祉の国家的・社会的責任の原則をつらぬきながら、民間社会事業としての社会的使命を遂行する。(使命)
ロ.公的社会事業ないし社会福祉施策に欠ける部分をさぐりだし、生の内的充実を基本として、人間らしい生活と福祉の権利を守る社会的事業を遂行する上で必要な社会的提言を積極的におこなう。(開発)
ハ.すべての社会福祉分野と領域に関心をもちながら、特に治療から予防への社会開発を考究し、つねに調査と研究を怠らず、社会生活の安定と安全を保障する社会福祉の増進に協力する。(研究)
ニ.社会福祉活動に参画しうる人材の養成に努力し、制度と設備と人間的資源の総合化によって社会福祉水準の向上をめざす。(人材)
ホ.地域福祉の組織化と寺院の社会福祉・教化活動の接点を探求しながら、基幹運動と緊密な連絡・提携を保ち、寺院ならびに門信徒の理解と協力を求めるとともに、「みんなの福祉をあつめる運動」の推進によって社会的善意と連帯の心を育てる。(活動)
本派社会福祉推進協議会の提唱する「みんなの福祉をあつめる運動」の拠点は、基本的には寺院である。ある時代には寺は山にあった。しかし、ある時代には山にあった寺が村や町の中にできた。そして、ある時代には寺の隣に保育園や老人ホームができ、こどもや若者の広場ができた。共に旅する仲間たちが集まり、御同朋・御同行のコミュニティづくりをめざす所にこそ、仏教福祉の原点がある。コミュニティの中に寺があり、みんなの福祉があつまる寺がコミュニティの中にある。みんなの福祉は、みんながみんなのために、みんなによってつくるものである。だから、寺を中心にしてみんなの福祉をあつめることができる。老いも若きも、障害者も健常者も、男も女もみんな同じ念仏の心をあつめ、みほとけの心にあつまることができる。
「みんなの福祉をあつめる運動」を展開する基本目標は、善意と共感と自発性に溢れた実践者のまごころを集めることである。そして、心のともしびをつけたりつけられたりして福祉のコミュニティづくりに励むことにある。いのちに目覚め、いのちの尊さを学び、いのちの輝きに生きる仲間たちを集めることである。そのなかで、社会的善意と連帯の輪が広くひろがり、あたらしい芽がふき、あたたかなぬくもりの絆がつくられるのである。
如来の眼 は福祉を見つめる眼であり、如来の心は福祉を育てる心である。如来と共に生きる限りない道は、いのちに輝く道であり、みんなと歩く念仏道であることを確認しておきたい。
「みんなの福祉をあつめる運動」の具体的展開は、福祉をみつめる事業(研究・研修)、福祉をふかめる事業(調整・計画)、福祉をすすめる事業(実施・提言)、福祉をあつめる事業(強化・評価)である。そこには、種々の啓発活動、小地域単位の住民相互の見守り・たすけあいシステム、各種相談事業ふれあい型食事サービス、住民参加型介護支援サービス等々が考えられる。
われわれは、行政責任がまだ明らかになっていない福祉サービスや、行政の対応が遅れたり不十分であるサービスについて、先駆的、開拓的、自発的に取り組むことに一つの使命感を持つべきであると考える。しかし、それが行政の下請けになったり、利用されるものであってはならない。むしろ、そのサービスの重要性を社会的に認知させ、行政責任によるサービスに移行していくか、行政の財政負担を促す方向に発展させることが重要である。
(1)「みんなの福祉をあつめる運動」の具体化について
1、福祉をみつめる事業(研究・研修)
*福祉の“今”を考える講座
*福祉キャンペーンをすすめる講座
*宗門のあらゆる機関・団体の構成員の福祉勉強会
*福祉映画・ビデオを観る会
*社会福祉施設を観る・知る会の開催
*在宅福祉サービスを観る・知る会の開催
*ボランティア活動教室の開催
*その他2、福祉をふかめる事業(調整・計画)
*組織化のための部会の設置と構成員の充実
*各種グループ(仏婦、仏青、仏壮等)との連携
*福祉実施計画の総合調整委員会の設置
*福祉専門員の設置と専門員の活動マニュアル作成
*ビハーラ活動と福祉を考える研究会
*福祉キャンペーンを考える学習会
*地域社会福祉協議会活動への協力と参加
*当事者らと語る会の開催
*その他3、福祉をすすめる事業(実施・提言)
*友愛訪問の継続(老人ホーム、老健施設等)
*独居老人、ねたきり老人の看取り訪問事業
*仏教讃歌と法話を贈る事業
*点字法話をつくる事業
*手話通訳の推進と仏教用語手話の統一化
*高齢者とのふれあい事業(高齢者誕生会、昼食会等)
*みんなの福祉講座(啓発のための講演会等)
*みんなのための福祉講座(介護講座、いのちの輝き講座等)
*ビハーラ活動・ビハーラ福祉事業
*その他4、福祉をあつめる事業(強化・評価)
*福祉フォーラム・シンポジューム等の開催
*仏教ボランティアの登録バンクの設置
*福祉啓発資料・リーフレット等の作成
*福祉専門員・推進員のための研究・研修
*福祉施設関係者のための仏教福祉研修
*福祉施設理事・評議員のための仏教福祉研修
*宗務員のための仏教福祉研修
*住職・寺族のための仏教福祉研修
*教化諸団体リーダーのための仏教福祉研修
*各種専門家と当事者との連携と交流をはかる
*活動強化のための評価の機関の設置
*家族の豊かさを強化するための福祉事業 (家族日曜学校の開催、仏教介護教室等)
*その他(2)真宗福祉活動の展開過程について
具体的活動のためには、まず拠点づくりが重要な要素ではあるが、その組織化のためのプロセスがより重要である。言ってみれば、真宗福祉活動の展開過程は、1)問題把握 2)計画策定 3)行動実施 4)活動評価の順序に従って進行する。
1)問題把握
まず問題把握は、アンケート調査、現地踏査・座談会等によって、地域における真宗福祉の事情や門信徒と寺院居住者の福祉意識を確実に把握することにある。
この場合、地域の民生委員・児童委員や保護司等の参加と緊密な連携体制を強化することを忘れてはならない。2)計画策定
次に、計画策定は問題の把握によって解決に向けての計画をたてることである。出てきた諸問題から、目標を設定することが大切である。
全体計画、課題解決計画、そして具体的な実施計画と必要になる。そこには、宗門行政担当者と専門的助言者と寺院関係者・実践グループが加わっていることが望ましい。3)行動実施
行動実施を円滑に推進するためには、インターグループと言われるように、教化団体組織間の連絡・調整等を行う協議機関が必要である。
真宗福祉活動の実践母体は、ここにおいて計画の立案、実施、広報、予算・活動資金計画等について欠かすことがあってはならない。4)活動評価
最後に、活動評価が重要である。計画を策定した時の目標や計画に従ってその実現と効果をみることになる。そして、問題点や反省点を挙げ今後の課題を明らかにし、新しい方針を立ててゆくことである。
活動に対する見直しについて恐れてはならない。むしろマンネリ化する活動を恐れるべきである。
活動評価のもう一つの利点、何かに気付くことである。そして新しいことを発見することである。新しいことは、可能性である。真宗福祉活動が点の活動から線の活動になり、線の活動が面の活動へと展開されることを目標にして、あらゆる可能性を見つけだすことを忘れられてはならない。