教誨師について

宗教教誨と教誨師

 わが国では、憲法第20条の規定により、信教の自由が何人にも保障されており、それは刑務所、拘置所、少年院等の矯正施設の被収容者に対しても認められている権利である。

 しかし、国の施設である矯正施設の職員は、憲法上の制約により被収容者の宗教的欲求には対応することが出来ない。そのため、彼らの宗教的欲求に対応するには民間篤志の宗教家の協力が必要であり、各教宗派の宗教家に施設内での宗教活動を委ねている。この「矯正施設内で行う宗教活動」を“宗教教誨”と言い、矯正施設からの要請によって宗教教誨を行なっている宗教家を“教誨師”と呼んでいる。
 宗教教誨とは、文字通りに「宗教」のこころを「ていねいに教え諭して」いくことであり、全国の矯正施設の被収容者に対し、各教宗派の教義に基づいて徳性の自発的発露を促していく活動である。実施内容によって、集合教誨、個人教誨、忌日教誨等に区分され、その他、宗教行事として、仏教では花まつりや春秋彼岸会、盂蘭盆会等も行われており、他の各教宗派においても様々な行事が実施されている。
 一方、教誨師の中には、宗教教誨のほかに、担当の矯正施設から委嘱を受けて、被収容者の心情の安定と改善更生及び社会復帰に資する各種の活動を行っている者もいる〔例えば、相談助言、クラブ活動、各種集会、講話、教養講座、刑執行時(入所時)指導、釈放前(出所準備)指導等の担当者または講師として〕

宗教教誨小史

監獄教誨のはじまり

 1872(明治5)年7月に真宗大谷派の僧侶 鵜飼啓潭が名古屋監獄での教誨を許可され、同年8月に同派の僧侶蓑輪対岳が巣鴨監獄(東京 府中刑務所の前身)での教誨を許可された。翌年4月には浄土真宗本願寺派の僧侶 舟橋了要が岐阜監獄での教誨を許可された。我が国における監獄教誨のはじまりである。

本派・大派の積極的な教誨進出

 真宗僧侶の教誨活動に刺激されて、全国で各教宗派の僧侶・神官が相次いで監獄教誨を出願し、各地の監獄で教誨が開始された。1881(明治14)年改正監獄則に、教誨師をして教誨をなさしむべき旨の文言が初めて明記(第92条・第93条)されたが、監獄費は地方支弁であり、財政的に有給教誨師を任用する余裕のない府県が多く、やむを得ず各宗派の本山に教誨師の派遣を要請し、常駐が実現した。
 当時の本願寺派明如宗主、大谷派厳如宗主は監獄教誨に非常に意を用い、教誨師の派遣に積極的に協力されたので、この時期に本・大両派の監獄教誨への進出は極めて顕著となった。また、各施設への本尊、仏具等の寄贈も積極的に行われ、現在も、判明しているだけで40余りの施設に残っており、宗教行事や宗教教誨等に用いられている。
 その後も各教宗派本山から、俸給、旅費を支給して常駐教誨師を派遣する体制が続いたが、多くの教宗派は財政上等の理由で次第に派遣を中止するようになり、本願寺派と大谷派が全国の監獄教誨独占の観を呈するようになった。

官制の教誨師制度

 1900(明治33)年、監獄費は国庫支弁に改められ、1903(明治36)年に監獄官制が制定され、教誨師は正式に官吏(公務員)に任ぜられた。当時の教誨師の定員は180名であった。
 1908(明治41)年には監獄法が制定され、教誨師は教誨・教育全般はもとより、保護調整等多面な業務も分掌し、文字通り監獄の幹部として重要な役割を担うようになった。この制度は、戦後の新制度が始まるまで続いた。

戦後の教誨師制度

 第2次世界大戦後は新憲法の定める信教の自由、政教分離の原則から、職員による宗教教誨は出来なくなり、1947(昭和22)年4月、官制の教誨師制度は廃止された。これに伴って、従来の教誨師は、一般刑務官に転官して矯正業務に携わることになり、また宗教教誨の実施は民間篤志宗教家に委ねられ、教誨師の斡旋は、「日本宗教連盟」及び同支部に協力を求めることになった。こうして発足した新しい教誨制度は関係者の努力によって次第に充実し、今日に至っている。
 なお、1956(昭和31)年に「全国教誨師連盟」が結成され、初代総裁に本派の大谷光照門主(第23代宗主勝如上人)が就任され、1996(平成8)年3月に勇退(40年間奉職)された。そして、同年4月に大谷光真門主(現 前門)が後任の総裁に就任された。

教誨師の活動

(1)宗派別教誨師実人数(平成29年4月1日現在・公益財団法人 全国教誨師連盟より)

神道系(12.1%)

225名

キリスト教系(14.1%)

262名

神社神道系

144名

カトリック系

66名

教派神道系

65名

プロテスタント系

196名

その他

16名

諸教(8.7%)

163名

仏教系(65.1%)

1,214名

天理教

162名

浄土系

678名

その他

1名

禅系

189名

 

 

 

真言系

159名

日蓮系

148名

天台系

40名

合計1,864名    

(2)宗教教誨活動の実施状況(平成26年1月1日~12月31日・公益財団法人 全国教誨師連盟より)

 宗教教誨には、集合教誨と個別に行なう個人教誨がある。それらの実施回数は、年間18,101回に及んでいる。その内訳は、仏教系が11,194回、61.9%であり、次いでキリスト教が3,659回、20.2%であり、神道が2,065回、11.4%、諸教1,183回、6.5%である。

教誨師の組織

 浄土真宗本願寺派の宗教教誨は、如来の本願を仰ぎ、真実に生きぬかれた宗祖親鸞聖人の「御同朋・御同行」の精神に基づいて、岐阜監獄における「罪を犯した人びとを更生させる布教」にはじまり、現在319名(平成29年3月31日現在)の浄土真宗本願寺派の教誨師が各施設で活動している。
 公益財団法人全国教誨師連盟の会員である教誨師は、担当する矯正施設において教誨活動に従事している。浄土真宗本願寺派では、本派の教誨師のほか、篤志面接委員及び矯正施設職員等で「浄土真宗本願寺派矯正教化連盟」を組織し、機関誌『教誨通信』の発刊や研修会を実施するなど、自己及び相互研鑽、親睦を図るとともに本願寺派の矯正教化事業の推進にあたっている。

輔導使(ほどうし)について

 宗門においては、社会事業及び更生輔導その他社会教化に従事するため、教師の中から、輔導使という宗務員を設けている。現在、170名の方(平成28年4月1日現在)が任命を受け、社会貢献活動に従事している。宗門の一員として社会貢献活動に従事することの認識を新たにするために、輔導使の任命を受けることをすすめている。

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