龍谷大学におけるビハーラ活動者養成の試み

ビハーラ活動推進委員会委員 龍谷大学短期大学部長 若原道昭

 「ビハーラ」は今日の日本では「ホスピス」に比べるとまだ馴染みの少ない言葉ですし、その活動の歴史も浅いと言えます。

 「末期患者のために夕-ミナル・ケアを積極的に実践する病院」という意味の「ホスピス」は、イギリスで生まれ、1970年代には世界的な運動へと広がりました。それは、末期患者とその家族を、様々な種類の専門家のチーム(医師、看護士、ソーシャルワーカー、宗教家、ボランティア等)がケアし、患者のQOL(生活の質)を高め、安らかにその人らしい死を迎えられるように援助することをめざしています。そして今日ではこのホスピス運動は、医療施設だけではなく、福祉施設や自宅でのケアにも拡大されてきています。

 日本でもこのようなホスピス運動の影響を受けた夕ーミナル・ケアが行われるようになりましたが、その普及とともに、日本の社会的・文化的・宗教的な風土や死生観により合ったケアを求める新しい動きが生まれました。その先駆をなしたのが1985年に田宮仁氏によって提唱された「ビハーラ」でした。田宮氏は、もともとキリスト教的背景をもつ「ホスピス」という言葉に「仏教」を結びつけた「仏教ホスピス」という表現が必ずしも適切なものとは言えないと考えて、これに代えて「仏教を背景としたターミナル・ケア施設」として「ビハーラ」を提唱されたのです。

 もともと仏教は人の生・老・病・死の苦悩に直接かかわり、「生死いずべき道」を説き、いかなる人にも避けることのできない死の問題を解決しようとします。どんなに科学や医療が進歩してもこの問題は残りつづけます。自らの或いは身近な人の死をどのように受け入れていくのかという、死にゆく人とそれを看とる人との両者に対する「デス・エデュケーション」(死への準備教育)は、元来、仏教の任務でした。平生から自らの死を主体的に受けとめ、いのちを見つめ、生死の意味を深く問うことを教えようとしてきました。死が人々にとって現代よりももっと身近な、日常の中の出来事であり、同時に仏教が確実に人々の精神的支柱となりえていた時代には、ターミナル・ケアもまたもっと日常の場面で自然に行われ、生きたデス・エデュケーションの場が与えられていたのかもしれません。水谷幸正氏は、「すべての僧侶は看護僧であり、死のカウンセラーであってほしい。」と述べておられます。そして、急速に進行しつつある高齢社会の中で今、医療や福祉の領域においてますますその質やそれを支える価値観が問われるようになっています。それと共にこの準備教育の意義が一層高まっています。

 今後、さらにビハーラ活動の充実・普及をはかっていくためには、過去十数年間の経験の蓄積をふまえながら、成し遂げられなければならない課題はまだまだ多いようです。例えば、
○「ビハーラ」の固有の理念や思想をより明確なものにしていくこと(これについては、3月14日に宗門のビハーラ活動推進委員会で新しく「ビバーラ活動の理念と五つの方向性」が決定され、一歩前進しました)
○他の夕-ミナル・ケアとは異なるビハーラに固有のケア方法を確立していくこと
○ビバーラを実践する病院や施設を増やし活動のネットワークを広げていくこと
○ビハーラの実践にたずさわる人材の養成と、そのための教育カリキュラムを作りあげること
、とうです。

 これらの課題のうち、ビハーラ活動従事者の養成に関しては、宗門が1987年から研修を開始しておりますが、その他に当然ながら宗門系大学が果たすべき役割は大きいものがあります。既に仏教大学では1985年に「仏教とターミナル・ケアの研究」が組織され、またその後、同大学専攻科(四年制大学卒業者を対象とする)の中に「仏教看護コース」が開設され、成果をあげているようです。我々の龍谷大学でも、仏教科と社会福祉科の二学科からなる短期大学部の中に、今年4月から「ビハーラ活動者養成課程」を置くことになりました。そしてこの課程の科目の一部は、京都府内46大学・短大で組織されている「大学コンソーシアム京都」の科目としても提供し、他大学の学生や市民にも受講していただくことにしています。この件については、『京都新間』2月28日)や『本願寺新報』(2月20日)でも紹介していただきましたので、短期大学部教務課には学外から数件の間い合わせが寄せられており、我々も反響を喜んでおります。

 またこれとは別に、龍谷大学の全学部の学生や社会人を対象とするカウンセリング研修課程の中に「ビハーラコース」が発足します。いずれも、これまで11期におよぶ本願寺のビハーラ活動者養成研修会のために試行錯誤を繰り返しながら作り上げられたカリキュラムを基準として、教育カリキュラムを作成しています。このうち、「ビハーラ活動論」「ビハーラ活動内容総論」「ビハーラ活動実習」は新設科目です。「ビハーラ活動論」は鍋島直樹先生、「ビハーラ活動内容総論」は大橋紀恵先生にご担当いただきます。

 「ビハーラ活動者養成課程」と「ビハーラコース」はいずれもささやかな試みですが、果たしてどれくらいの受講生が集まるのか、今、大きな期待と小さな不安を抱きながら新年度の開始を待っているところです。

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