3.ビハーラ活動の現状分析
(1)ビハーラ理念の現状

 ビハーラ理念を創始するには、「時代の要請にこたえる」教学の確立を目指した教学本部が適当であった。そこで、1986(昭和61)年11月に8名の委員からなる「医療と宗教に関する専門委員会」が設置され、そして1988(昭和63)年の2月までに都合16回の委員会が開かれた。委員会では「宗教は心の問題」と限っていた従来の在り方の反省に立って、「《いのち》の本当の在り方」を課題にして取り組まれた。そこでは、主として真宗の生命観と生死観を明らかにし、仏教ケアの必然性を示された。仏教ケアの特色は、「身心一如」の立場から真のいのちにめざめ、生死を超えていくところにある。そのケアは、共感を基にして形成されるが、社会の営みであるから、充分に社会の要請に耳を傾け、また社会に発信する必要があるとされた。そして、教団として継続して活動できる体制をとることになった。

 これらについては「医療と宗教」(教学シリーズ№4)に詳しく述べられている。

 このようにして始まったビハーラ実践者の要請に当たって、「念仏者は、真のいのちにめざめる者として報謝の精神で関わる」(上掲書141頁)提唱となった。

 では、ビハーラ会員養成ということで基本学習や実践学習を経た人たちの受けとめ方はどのようになっているのだろうか

第1位 ビハーラとは念仏の報恩行である 50.0%
第2位 ビハーラとは布教活動である   15.0%
第3位 ビハーラとは訪問面談や法話だけ 11.5%
(第4回ビハーラ活動全国集会アンケート調査集計報告)

以上は、限られた設問の中からの選択であることを承知されたい。

  一方、基幹運動をすすめる立場から、行動原理のすべてを報恩行、報謝行ととらえて教学的な位置づけをしようとしてきたことが問題として指摘されてきた。そこで、様々の矛盾点が明らかになったため、宗門の社会福祉推進協議会でも長らく協議し、「新要綱」が出されるに至った。(参照「浄土真宗社会福祉白書」第9号)

  ビハーラ会員が共通して自己確認し、社会に広くアピールするため、いち早く「ビハーラ活動の方向性」を箇条書きにして、理念を含めて示したところである。

【ビハーラ活動の方向性】
Ⅰ.広く社会の中でいのちを見つめるビハーラ
Ⅱ.いつでもだれにでも実践できるビハーラ
Ⅲ.相手の望みに応えるビハーラ
Ⅳ.医療・福祉と共にあるビハーラ

 このような「ビハーラ活動の方向性」を示したのは、田宮仁氏よりビハーラの提唱を受けて、私たち教団としての意向を表明したものであった。

  田宮氏は、「看護技術」(1989〈昭和64〉年4月号)や、『日本医師会雑誌』(1991〈平成3〉年4月号)には、3つの理念と活動の4本柱を発表し、ビハーラによって仏教の立場からのターミナル・ケア問題に対する具体的対応策を提示したといっている。また、「仏教ホスピス」という表現では、木に竹を継ぐ類になるので、仏教の主体性と独自性、そしてソーシャル・アクション(社会活動)の展開を視野に入れて「ビハーラ」と呼称している。

  しかし、実践活動をしている人たちは、「ともに安らぐ時間をもつ」「生きる喜びを感ずる」と、「ビハーラ」を表現しており、「ホスピスと同義語」と考えている人は少ない。(第4回ビハーラ活動全国集会アンケート調査集計報告による。)

  私たちは、人びとの苦悩の現実を見据えて、積極的な関わりを展開しようとするとき、ホスピスとは異なる概念から考える必要がある。「ビハーラ」は、理念から出発するのではなく、老・病・死に苦悩する現実に関わる活動から始まるものであるといえよう。また「ビハーラ」は、多面的な内容を包括しているが、それらを「ビハーラ・キーワード」としてあらわしたものが -いのち・共生・実践- である。

  およそ基本目標をピックアップすると、次のような内容を含んでいる。

【ビハーラ活動の基本目標】
1.ビハーラ活動では、教法の精神を具体化する
2.ビハーラ活動では、いのちに目覚め、いのちを支えあう活動をする
3.ビハーラ活動では、同じ方向を見つめて共に歩もうとする
4.ビハーラ活動では、生と死に豊かな意味を与えられる
5.ビハーラ活動では、相手のニーズに応えて共感していく
6.ビハーラ活動では、困難な状況の人びとに奉仕をする
7.ビハーラ活動では、相手の人生に傾聴していく
8.ビハーラ活動では、同じ願いをもった人たちと連携する

 これまで進めてきたビハーラ活動は、拡大化するとともに、一般化したということは事実である。しかし、社会的浸潤となると、活動者の半数以上が「ビハーラ活動が世間的に認知されていない」と指摘している。第4回ビハーラ活動全国集会アンケート調査集計報告でも分かるように、「ビハーラ活動とは何か」「ビハーラ活動は医療や社会福祉にかかわって、何を目指しているか」そのことを知りたいという要請が多い。

そこで、どのようなビハーラ活動が行われているか、個別の事例は「ビハーラ事例集」(仮称:平成11年4月発行予定)にゆずるとして、ここでは次の3例を挙げてみることにする。

~例1~ <ビハーラ郡上の場合>
ビハーラ岐阜のもと、郡上組のビハーラ活動があるが、その始まりは1998(昭和62)年である。その翌年から月1回定例法話会を開き、毎週水曜日は3名で居室訪問を続けている。

  このビハーラ活動は、75名の参加で1996(平成8)年の総会を開いて新たな出発をし、明宝村にいる会員は「ななさとデイサービスセンター」を週4日間交代で入浴介助などのビハーラ活動をしている。

主な年度行事は
八幡病院法話会  月1回
八幡病院居室訪問 毎週木曜日
学習会      年4回
反省会      年1回

~例2~ <ビハーラ鳥取の場合>
ビハーラ推進の2つの課題

①従来形成された仏教に対する誤解をといて葬式仏教からの脱却をはかる
②対外的な啓発活動を行い、ビハーラ活動への理解を得て、活動参加者を増やす。1999年「ビハーラいなば」発足の予定。

【活動内容】
・浄土真宗ホテル法話会「いのちみつめて」 12回
・仏教の基礎を学ぶ 年4回 参加者80名
・花祭り集い 特別養護老人ホーム
・『大乗』贈呈 長期療養の人へ
・配食活動 法座のお斎を届ける
・季節の便り 独居老人・施設入所者
・鳥取で交通事故にあった陸上競技部の学生に対する患者本人と家族に対し、話し相手と心のケアを行った。3ヶ月後に京都へ転院移送を引き受け、ビハーラ京都会員へバトンタッチした。

~例3~ <ビハーラ山口の場合>

ビハーラ山口の会員は約100名。在宅ケアと病院と施設のビハーラ活動と福祉法話である。

(在宅ケア)

入浴介助・話し相手

(在宅における終末期ケア)

法話・いけ花

(病院活動)

田代台病院(居室訪問・話し相手)安岡病院(居室訪問・法話会)

(施設活動)

はまゆう苑(法話会・居室訪問・清掃・患者手伝い・袋貼り箱作り)高森苑(おむつたたみ・法話会)錦苑(居室訪問・手芸・法話会)美和苑(法話会)

(福祉法話)

はぎ園・阿北苑・すさ苑・恵光園・清風園・青景苑・みのり園

(話題1)

祖母が病院から施設へ移り、そこでビハーラ実践を見て「すごいなぁ」と思い、自分もビハーラ活動したいと思い会員になった。

(話題2)

病院の看護部長さんがビハーラ実践活動のため養成研修を受けられた。それでビハーラ活動に深い理解と協力が始まり、活動の終わりには反省会をもつなか信頼関係が深まっている。

(話題3)

豊浦組は、年1回のビハーラ学習会を開いて7年になる。今年は、220名の参加をえて、田畑正久院長(東国東病院)の講演を午前に、午後から介護学習(車椅子)を行っている。

(話題4)

明年ホスピス病棟もできるので、病院側からの要請もあり、会員の中から専門的取り組みをしてもらうことになっている。

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