ビハーラの実践活動を始めるにあたって宗門では、
1.ビハーラ実践活動について
2.具体的な実践活動
3.機構について
4.人材養成について
5.1987(昭和62)年度の養成活動事項について
の5項目の「ビハーラ実践活動基本構想」を決めて取り組みを始めました。当初、「ビハーラ実践活動について」次のような基本構想をもっていました。
ビハーラ(Vihara)とは、サンスクリット語にして、「休息の場所」「僧院」または「寺院」などという意味のほか、「安住」と漢訳されており、「存立する」「身も心も安んじる」などという意味もあります。
現代社会は、核家族化・都市化、更に高齢化の現況も加わり、病院における死亡率は70%にもおよぶといわれております。かかる状況によって病床に伏す人々からは勿論のこと、多くの医療に携わる人々からもこの状況に対して、宗教者として手をさしのべてほしいとの要望があります。
宗門としても『教書』において、社会の変化により「自己自身を見失い、ひいては他の人びとの人格や、生命一般の尊厳性をも正しく見ることができなくなってきています。」と、ご指摘になっておられますお意を体し、病床にある人々の老・病・死の苦悩の解決のために、又、生命の尊厳性を正しく見つめることができるようにとの願いをもって、ビハーラ活動を実践いたすべくその人材養成を始めます。
ビハーラ実践活動の概念については、入院・在宅を問わず、病床に伏す人々のもつ精神的な悩みに対し、それを和らげ、人間としての尊厳性を保ちつつ生きられるよう、家族など多くの人々とともに宗教者として精神的介護(ケア)に当たるものです。
(1987年3月「ビハーラ実践活動基本構想」より)
ビハーラ活動のスタート時点では、これこそ仏教徒が、念仏者が身を挺してやるべき時宜を得た活動だという意気込みが感じられました。また宗門外の有識者からは称賛の声が届き、各新聞社やTV局はこぞってニュースや特集を組んで報道しました。
ビハーラ活動も試行錯誤を重ねた10年を経ると、様々な課題が生じてきました。特に必要なことは、「ビハーラ活動の啓発」と「ビハーラ活動の人材養成」ということでした。
地道に継続してきたビハーラ活動の現場では、「病院や施設の要請に応えるだけの会員がいない」「これまでの活動者が高齢化して出てこられなくなってきている」「もっと強力な啓発や研修をして、実践活動者を育成してほしい」などの声が多くなってきました。
社会の期待が大きいのに、それに応じられるだけのビハーラ活動者がいないということが浮き彫りになってきました。ビハーラ活動発展の課題として多かった、「1.僧侶や寺院の体質の問題 2.教団の強力な変革 3.教団組織の中の位置づけの問題 4.教義の解釈と社会性の問題」(「ビハーラ活動10年総括書」による)によるのでしょうか。
しかしながらビハーラ活動10年を経て、他の教団にも着実に広がり、活動を理解する人も少しずつ増えてきました。それは会員数においても、活動施設についても、また活動態様についても、確実に増えてきています。
その実態を正確に把握して、ビハーラ活動30年を視野において、次の10年の進展に取り組もうとするのが、本総括書作成の意義です。