fontsize

3.ビハーラ活動の現状分析
(6)人材養成とカリキュラム

 1986(昭和61)年、「ビハーラ実践活動研究会」において、会員養成の実施要項を作成すると共に、基本学習のカリキュラムと実践学習の重点目標を定めた。しかし、実践学習のレポートや実践者の現場からの声を聞くと、多くの問題があることに気付かされた。

  そこで、2年間のビハーラの養成休止期間に、これら実践者の方がたから提起されていた問題について論議を重ね、このたびの「新カリキュラム」を提案した。養成について提起される様々な課題を克服しうる体系となるものと考える。

  これまで、「養成目標」を「ビハーラ活動を主体的に実践できるよう養成する」としてきた。そして、基本学習を3回合計66時間、実践学習を1回初年度に、実践学習3回と基本学習1回20時間を2年度目に行ってきた。

  そして基本学習では、臨床10.5、看護・介護10、福祉8.5、医療7、ビハーラ5、カウンセリング13.5、真宗5、運動4、社会5、その他17.5とし合計86時間としていた。実践学習についても、8項目を4回の間で習得するよう目標を定めていた。

  しかし、10年の試行錯誤で、次のような課題が明らかになった。

  • ○ビハーラという言葉を理念としてとらえてしまい、活動を象徴する表現としてとらえていない。
    ○ビハーラ活動をよびおこす真宗教義の理解が不充分である。
    ○社会の現実を教義に問うことが身についていない。また従来の社会性を欠いた理解を改めていない。
    ○経験上で浮上した「痴呆症」「守秘義務」「脳死問題」「安楽死の意味すること」など、その場で当惑していることが多い。
    ○特に患者や老人を前にして対応できない。机上学習にたよっている。
    ○あまり現場を知らないままに、評価や批判をしてしまう。
    ○実践学習に当たって、習得した内容を問われても答えられない。

 以上に挙げたものをはじめ、噴出する疑問や要望に応えて、ここにカリキュラムを改めて提案することになった。

  このたびの改正に当たって留意したことは次の点である。

a.「特色対応」をしたこと

み教えに生きるものが具体的に応える行動としてのビハーラ活動をすすめる。その特有性を色濃くするため、基本視点に教義理解を深めることと、社会活動の姿勢を確立することと、カウンセリングによる成長とを重点的に改めた。

b.「現実対応」をとりいれたこと

これまでの社会性を欠いた法義の受けとめ方を改め、現実問題に一歩踏み出すことのできるようにする。そのため、宗教社会学、宗教心理学、家族社会学の成果を学べるように改めた。

c.「問題対応」をしたこと

現場に出ると、「ビハーラの説明」「痴呆症への対応」「守秘義務ということ」「脳死・安楽死についての問い」に当惑したことが多いことがわかった。それらへ対応できる習を取りいれている。

d.「臨床対応」できるようにしたこと

この度の改正に、要望される実習を充実することに最重点をおいた。臨床の場を常に想定し、学習し、指導を受けることのできるようにした。

  カリキュラム作成の段階では、次の点を勘案している。

  • ○従来の時間数を財政上からも超えることができないという前提に立っている。むしろ時間数を減らして、80時間とすることが現実的である。
    ○家事援助や支援方法といった「2級ヘルパー」程度のケア能力を身につける。
    ○事例検討や実習評価などを通じて確実に能力アップをはかるようにする。
    ○法話を必ずしも一方通行型でなく、対話型や相談型で行えることも考慮した。
    ○実習に力点をおき、基本介護技術とカウンセリングの習得を目指した。

  改正を目指した「ビハーラ活動養成研修カリキュラム」は、添付資料の通りである。

  なお、聖路加看護大学などキリスト教系は、宗教的看護者養成をしてきたが、1996(平成8)年に飯田女子短大(真宗大谷派関係校)に仏教系で初の看護学科が誕生している。定員60名で、仏教看護などを3年間学ぶ。

  また、仏教大学(浄土宗関係校)も、仏教学専攻1993(平成5)年から少人数でビハーラを担う専門家養成の1年制カリキュラムを組んでいる。仏教福祉論やタナトロジー論をはじめ実習も多くとりいれている。

〈教区における人材養成の現状〉

 教区ビハーラは、これまで中央の「ビハーラ実践活動研究会」の会員募集によって養成研修を受けた人たちを中軸として結ばれている。

 それは、修了に当たって「ビハーラ会員への願い」を渡して、次のような要請をしたことも大きい。

  • 1.おのおの地元において、活動の実践者と賛同者を募り、実践者グループを結成すること。
  • 2.ビハーラ活動の報告会、研修会等に積極的に参加すること。
  • 3.中央または教区より実践現場を指定され、実践の要請があった場合には、積極的に協力すること。

  現在はこのような要請をしていないが、それでも、中央で受ける効果は、教区ビハーラの研修や学習効果よりも、大きいといわれている。

  各教区の学習内容を見ると、次のようになっている。

北海道 海外研修によるターミナル・ケア分野の研修
東 北 体験発表による共通理解学習
東 京 ビハーラの理念、医療と仏教、インフォームド・コンセント、自己決定、ホスピスケア、いのちの尊厳
長 野 死を(に)学ぶ会
国 府 「いのちを支える」講座、カウンセリング講座
新 潟 「苦悩に応えるとは」、ビハーラ活動の点検と今後の方向性
富 山 介護実習、接遇
高 岡 実践活動の中で提起された問題
石 川 病院における現場学習
福 井 カウンセリング
岐 阜 介護講座、実践講座、メンタルヘルスケア、ターミナル・ケア、カウンセリング講座、事例学習
東 海 移動介助、食事介助、居室訪問
滋 賀 カウンセリング講座
京 都 ビハーラ講座、介護実習
奈 良 同朋研修「共に生きる」、ビハーラ講座、ビハーラ学習
「人間関係コミュニケーション」「訪問活動」
大 阪 カウンセリング、介護実習、「老・病・死」研修
和歌山 浄土真宗とビハーラ活動、くらしの中の介護、介護実習
兵 庫 在宅における看護療法、施設との交流会
山 陰 活動体験発表
四 州 介護
備 後 カウンセリング、実践活動
安 芸 念仏者としての活動、介護者としての学び・カウンセラーとしての学び
山 口 仏教とビハーラ、医療と仏教、カウンセリング、ビハーラ組巡回
北 豊
福 岡 医療と宗教、安楽死問題、カウンセリング、がん告知
大 分
佐 賀 ターミナル・ケア、がん告知といのちの質、反省と今後の展望
長 崎 居室訪問
宮 崎 活動座談会
鹿児島 宗教、医療、人権等

 以上をみると、新会員に対する養成機能を果たす学習はみられない。中には、学習そのものも成立していない教区もある。このことを見ると、教区間の学習事例の情報を交換し効果あるものを取りいれることが大切である。しかし、学習の成立するベースを整えなければならない教区もある。一定数の線まで引きあげて、中央の養成研修をはかることも必要であり、仏婦会員など関心をもつ人たちとの合同もよい方法だが、そのような教区は未だ見られない。

養成問題から布衍していうと、本来は自前の病院や施設で養成して、社会に広く送りだすことが原則である。現在までは「ビハーラ実践学習協力施設・施設一覧表」(「ビハーラ活動提要」P53~56)の56カ所〈1998(平成10)年度現在60カ所〉の中から実習の場を提供、養成に対する全面協力を得ている。その実習のための病院・施設の望ましい在り方について、検討し、実現をはかることが大切である。

  東京ビハーラの「癌患者・家族の語らいの集い」の世話人、「電話相談室」を担当するT会員は、「ビハーラ施設の建設は緊急課題です。死をタブーとする現状を克服するには〈こういうプログラムがあります。安心してきてください〉といえることが第一」と力説している。(1991年12月1日本願寺新報)

  ビハーラ・ケア研究会を開いていることもあり、東京ビハーラ関係者から「ビハーラ施設の建設」を第2回ビハーラ活動全国集会(築地別院会場)で、強いアピールがあったことを報告しておきたい。

  もちろん、会員の中から、本山北境内地の利用について意見が多くだされていた頃であり、「ビハーラ施設の建設を」「本山福祉ゾーンをつくって、<こころの故郷づくり>」といった提唱が、会員から随時だされていた。

  これらの問題は、広範囲な検討と高度な判断を要する性質のものであり、関係者はもとより、広く宗門内外に議論を拡げていくなかで考えられる問題である。

  これらについては「医療と宗教」(教学シリーズNO.4)に詳しく述べられている。

Pagetop